業務改善助成金(3)
前回、業務改善助成金の対象となる方は、「事業場内最低賃金の労働者もしくは賃金を引き上げた場合に賃金額が追い抜かれる労働者」であると説明しました。以下は前回の例です。
Aさん 時給1020円
Bさん 時給1000円(事業場内最低賃金)
Cさん 時給1030円
30円コースの場合、Aさんは新しい事業場内最低賃金の1030円を下回るので対象となりますが、Cさんは下回らないので対象となりません。
この場合、Aさんの時給も30円上げないと助成の対象とはされません。Aさんの現在の時給が新しい事業場内最低賃金の1030円を下回っていますので、1030円以上にしなければなりませんが、それだけでは30円上がっておらず、助成対象の人数にはカウントされません。
事業場内最低賃金を引き上げて、下回っていた人全員を新しい最低賃金にすればその人数が助成対象の人数となるわけではないので注意が必要です。
業務改善助成金(2)
業務改善助成金の助成対象となる要件として、賃金の引上げがあります。この賃金の引き上げについて今回は解説します。
賃金の引き上げ額によって①30円コース②45円コース③60円コース④90円コースと四つのコースに分かれています。助成額は引き上げ額が大きければ大きいほど、引き上げる人数は7人を上限に多いほど助成額が高くなります。
注意すべきは賃金を引き上げた労働者の数え方です。
対象となる労働者は事業場内最低賃金である労働者もしくは賃金を引き上げた場合に賃金額が追い抜かれる労働者です。
追い抜かれる労働者とは次のような方でしょうか。具体例を挙げて説明します。
Aさん 時給1020円
Bさん 時給1000円(事業場内最低賃金)
Cさん 時給1030円
30円コースを申請しようとBさんの時給(=新しい事業場内最低賃金)を30円上げて1030円にした場合、Aさんは1030円を下回ります。この場合のAさんが追い抜かれる労働者に該当します。
CさんはBさんの新しい時給と同じ1030円ですので、追い抜かれた労働者には該当しません。
では、対象となる可能性のあるAさんはいくら賃金を上げれば助成の対象とされるのかを次回確認していきます。
業務改善助成金(1)
今回から、業務改善助成金について解説していきたいと思います。
業務改善助成金は厚生労働省の行う助成金の一つで事業場内の最も低い時間当たりの賃金を引き上げ、生産性向上に役立つ設備投資等を行う事業主が対象となるものです。
キャリアアップ助成金とは異なり、賃金を上昇させるだけではなく、設備投資も行う必要があるため、注意する点が多くあります。
また、申請は原則2月28日までに行う必要がありますので、それまでに業務改善計画と最低賃金引き上げ計画を作成しなければなりません。
次回以降に計画を策定する際の注意点について触れていこうと思います。
法定四帳簿の指摘事項への対応 労働基準監督署の調査に対応できる「法定四帳簿」の重要性と整備について(2)
前回に続き、法定四帳簿についてになります。
今回はそれぞれの具体的な運用について述べていきます。
労働者名簿の運用
労働者名簿は事業場ごとに、日雇労働者を除くすべての労働者について作成する必要があります。必須記載事項は、労働者の氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入れの年月日、退職の年月日と原因です。記載事項に変更があった場合は遅滞なく訂正しなければなりません。保存期間の起算日は「労働者の死亡日、退職または解雇の日」です。
賃金台帳の運用
賃金台帳は事業場ごとに作成し、賃金の支払いの都度、労働者ごとに遅滞なく記入する必要があります。必須記載事項は、労働者の氏名、性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外・休日・深夜の労働時間数、基本給および手当額、賃金控除額です。保存期間の起算日は、「最後の記入日」となっています。賃金台帳は一般的な給与明細や源泉徴収簿での代用はできません。源泉徴収簿を兼ねた賃金台帳を使用する場合は、記載事項に記入漏れがないか確認しましょう。また日雇労働者に関しては、賃金台帳は必要ですが、賃金計算期間の記載は不要です。
出勤簿の運用
出勤簿は、労働者の労働時間を把握するための帳簿です。記載事項は、労働者の氏名、出勤日、出勤日ごとの始業および終業時刻、出勤日別の労働時間数と休憩時間数、時間外・休日・深夜の労働時刻と時間数です。
厚生労働省作成の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」によると、労働時間の把握はタイムカードやICカード、パソコンの使用時間記録などの客観的な記録により把握することが求められています。自己申告制については、適正な時間把握を行うための十分な説明と、実態と申告が乖離する場合の実態調査が義務付けられています。2019年4月以降、客観的な記録による労働時間の把握は、法的義務となっています。高度プロフェッショナル制度対象労働者を除くすべての労働者が対象となっているため留意しましょう。
年次有給休暇管理簿の運用
すべての企業は、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者含む)に対し、年5日については、使用者が時期を指定して取得させることが義務付けられています。使用者は、年次有給休暇を与えた時期、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした帳簿を作成し、保存しなければなりません。労働者名簿や賃金台帳と併せて調製することも可能です。
法定四帳簿の指摘事項への対応 労働基準監督署の調査に対応できる「法定四帳簿」の重要性と整備について(1)
法定四帳簿とは
法定四帳簿は、法令で定められた帳簿です。「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の法定三帳簿に加えて、2019年4月から「年次有給休暇管理簿」が追加され、4種類の帳簿を整備し、保存することが義務付けられました。これらを「法定四帳簿」といい、いずれも必要事項が記載されていればどんな様式でも構わないとされています。保存期間は、2020年4月1日施行の改正労働基準法第109条により、5年に延長されました。現状は経過措置として従来の3年ですが、5年の保存期間を見据えて対応することが重要です。
法定四帳簿に対する是正勧告
法定四帳簿に起因する是正勧告では、帳簿を作成していない、記載漏れがある、賃金台帳を事務委託した会社にあずけて自社で保存していない、などのケースがあります。年次有給休暇管理簿を除き、規定に違反した場合は労働基準法により30万円以下の罰金に処される場合があります。また労働基準監督署の調査の際に帳簿を提出しない、または虚偽の記載をした帳簿を提出した場合も処罰の対象となるため適正な整備が重要です。
次回は具体的な運用について解説します。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当 まとめ
これまで説明してきた社会保険適用促進手当について、助成金を受けるうえでポイントをまとめたいと思います。
- 助成金の対象となるのは6か月以上勤めてから社会保険に加入した方
- 対象となる方の賃金は107000円まで
- 保険料の計算の基礎から除けるのは新たに発生する保険料分が限度
- 期限を定めた措置とすることができるが、その場合は就業規則にその旨を記載すること
- 手当の名称は「社会保険適用促進手当」とすること
以上が主なポイントになります。
助成金の申請を考えている場合は、上記の点に気を付けてください。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(6)
これまで説明してきました社会保険適用促進手当は、支払のタイミングや方法については事業主ごとに決定できるので、必ずしも毎月支払う必要はありません。
ただし、保険料の算定から除くことができるのは手当を支払った月の保険料相当額となりますので、注意が必要です。
例えば、3ヶ月分の社会保険料相当額を手当として12月に支給した場合、保険料の算定から除くことができるのは12月の一ヶ月分の保険料となります。
社会保険に加入したことで新たに発生した保険料分を、事業主が全額手当で補おうとする場合は、毎月支給する必要があります。
また、毎月支払う場合は割増賃金の基礎となりますが、1ヶ月を超えるごとに支払う場合は割増賃金の算定基礎に含まれないという違いもありますので、どちらが良いかはそれぞれの利点を考える必要があります。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(5)
年金機構からは「社会保険適用促進手当」の名称で支給するように指示されています。
これは事後的に標準報酬に間違いがないか確認する際に、算定から除いたことが分かるようにするとともに、キャリアアップ助成金の申請をスムーズに進めるためとされています。
他の名称を使用して手当を支給し、保険料の算定から除いていた場合、算定金額についての争いが起こった際にどの金額が算定から除かれていたか分かりにくくなります。このようなトラブルを避けるためにも「社会保険適用促進手当」の名称の使用をお勧めします。
また、算定から除ける上限を超えて手当を支給する場合は超える部分について別の名称の使用を推奨しています。
これもどこまでが算定の対象外となるのかといった混乱を避けるための措置となります。
社会保険適用促進手当を設ける場合は、明確に「この手当は保険料の算定から除いている」ということが分かるようにしましょう。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(4)
社会保険適用促進手当をも受けることで助成金の対象となるのは6ヶ月以上継続して支給事業主に雇用されていることが必要であると、前回述べました。
助成金の対象とならないとして、5カ月前から勤めていた方が社会保険に加入した場合やすでに社会保険に加入していた方を手当の支給対象外とすることは可能でしょうか。
これは可能と示されています。
また、不公平であるとして同条件で働く既に社会保険が適用されている労働者に対して、社会保険適用促進手当を支給することも可能です。ただし、助成金の対象とはなりません。あくまで標準報酬月額の算定に含めないことが認められます。
この手当は社会保険料が発生することで手取り収入が減少することを防ぐ目的となりますので、手当の上限は本人負担の社会保険料相当額となっています。「社会保険適用促進手当」とすればいくらでも保険料の算定の計算から除くことができるわけではないことにも注意してください。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(3)
今回は社会保険適用促進手当を支給し、助成金を受けるうえでの注意点について説明します。
前回までに説明したように、この手当は社会保険に適用されるようになった労働者の健康保険料・厚生年金保険料の算定から除くことができますが、対象は標準報酬月額が10.4万円以下の者に限られます。
つまり新たに社会保険に加入することになる労働者でも、標準報酬月額が110000円となる方(=月の給与が107000円を超える方)はこの措置の対象となりません。
また、キャリアアップ助成金の対象となるのは6か月前の日から継続して支給対象事業主に雇用されている労働者に限られます。
前の会社で社会保険に加入していなかった方が新しい会社で社会保険に加入した場合、勤め始めてから6ヶ月未満の労働者が社会保険に加入した場合は社会保険適用促進手当を設けても助成金の対象外となるので注意が必要です。