育児休業中の傷病休職および傷病手当金の請求について(2)

 次に、育児休業期間中における私傷病による休職についてですが、多くの会社では、就業規則に休職制度を設け、勤続年数に応じて休職期間の長短を定めています。しかし、そもそも私傷病による休職制度は、労働基準法等労働関係法令に基づくものではないため、会社として休職制度を設ける義務はなく、設ける場合でも休職事由、休職期間等については、会社の裁量で決めることができます。なお、休職制度は就業規則の相対的記載事項です。常時使用労働者数10人以上で就業規則を定める会社で当制度を設けた場合には、その休職事由、休職期間等については就業規則に定めて労働者に周知しなければなりません。

 ところで、私傷病による休職制度を設けている会社において、労働者が育児休業期間中に、私傷病による休職事由が発生したり、逆に私傷病による私傷病休職中に出産による産前産後休暇、育児休業、介護休業などが発生したりすることもあります。産前産後休暇、育児休業、介護休業は法律上の休暇・休業制度であり、それを事由として不利益取扱いはできません。

 他方、私傷病休職は会社の就業規則に基づくものなので、就業規則の定めにより休職期間満了までに職場復帰できない場合は、自然退職とすることも可能です。したがって、休職期間中に産前産後休暇、育児休業、介護休業が発生した場合でも、解雇ではなく療養継続中の休職期間満了による退職は問題ありません。

 以上の点を踏まえると、就業規則に私傷病による休職期間を定める場合、産前産後休暇、育児休業、介護休業期間中に私傷病休職事由が発生した場合の取扱いに関しては、重複期間部分について私傷病休職の請求権は発生しないとするのか、それとも重複期間を超えて休職を要する場合、重複期間分を延長するのか、などを定めておく必要があるともいえるでしょう。

 また、私傷病による休職期間中に産前産後休暇、育児休業、介護休業となった場合に、休職期間を中断するのか否かについても同様です。

育児休業中の傷病休職および傷病手当金の請求について

 育児休業中の傷病により傷病手当金と育児休業給付金は併給できるのか、また育児休業中に傷病休職請求はできるのかを考えてみたいと思います。

 雇用保険法の雇用継続給付としての育児休業給付金は、出産後も離職することなく、原則として満1歳未満の子を養育するために育児休業している雇用保険の被保険者の生活保障のために支給される保険給付です。保育所待機等一定の条件に該当した場合には、最長2歳まで育児休業期間が延長され、その間は育児休業給付金の支給期間も延長されます。

 他方、傷病手当金は健康保険の被保険者が私傷病で継続して3日間の待機期間終了後、引き続き働くことができずに休業し、賃金の支払いを受けることができない場合に休業第4日から休業期間中の生活保障のために支給される保険給付です。

 育児休業給付金及び傷病手当金のいずれも、休業期間中の被保険者の生活保障を目的に支給されるものですが、異なる保険制度に基づくものであるため同時に支給を受けることができ、その金額が調整されることはありません。

 厚生労働省の通達(平4.3.31保険発第39号・庁分発第1243号)によれば、「傷病手当金または出産手当金の支給要件に該当すると認められる者については、その者が育児休業期間中であっても傷病手当金又は出産手当金が支給されるものであること。なお、健康保険法の規定による傷病手当金又は出産手当金が支給される場合であって、同一期間内に事業主から育児休業手当等で報酬と認められるものが支給されているときは、傷病手当金又は出産手当金の支給額について調整を図ること」となっています。

能力不足解雇 判例1-3

 この判例のポイントをまとめてみましょう。

 ・該当社員の能力が平均的な水準に達しておらず、外注先から苦情を受けたことなどは認められた。

 ・相対的に劣っているからといって、解雇事由に該当はしない

 ・解雇に該当するかは非常に厳しく判断される。

 ・能力の向上を図る指導が十分でないと判断された。

 

 解雇無効と判断されたこの判例に対し、能力不足を理由に解雇するにはどのようなケースが該当するのか、向上の見込みがないとはどのようなケースになるのかを能力不足解雇が認められた判例を通して確認したいと思います。

 

能力不足解雇 判例その1ー2

 前回見たように会社側としては労働能力や適格性に欠けるとして主張しましたが、裁判所はこれを退けています。

 会社側の「やる気がない、積極性がない、意欲がない、協調性がない」という主張は、これらを裏付ける具体的な事実の指摘はないとして会社側の主張を認めていません。

 裁判所は就業規則に示されている解雇事由を限定的に捉えており、これに該当するためには「平均的な水準に達していないというだけでは不十分で、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」としています。

 また、相対的な評価を前提にすることは相対的に考課順位の低い者の解雇を許容することになり、それは認められないとしています。

 向上の余地についても平均的前後の試験結果であった技術教育を除き、教育・指導が行われた形跡がないとして体系的に教育指導を行えば、向上の余地ありとしています。

能力不足解雇 判例その1ー1

 これは単なる能力不足では解雇できないという判例です。

 このケースでは就業規則で解雇について「精神または身体の障害により業務に堪えないとき。」や「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき。」などと定められており、会社側はこの「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとして解雇しました

 会社側は様々な主張で該当社員の能力に問題があったとしており、裁判においても以下の点が認められました。

1,人事部採用課に所属していた際、寝坊して飛行機に乗り遅れて会社説明会に行けなかった。

2、人材開発部に所属していた時、研修を円滑に進行させることができなかった

3,企画制作部に所属時、外注先から担当者を代えてほしいと苦情を受け、担当を代えざるを得なかった

4,過去1年間の人事考課で役員の除く全従業員の下位5%に該当する

5,労働能率が平均的な水準に達しているといえない

 このように、裁判所も該当社員の能力を「業務遂行は、平均的な程度に達していなかったというほかない」としていますが、なぜ解雇無効と判断したのでしょうか。

 解雇無効と判断された理由を次回見ていきます。

能力不足による解雇についての判例

 厚生労働省の示すモデル就業規則では、「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。」や「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換 できない等就業に適さないとき。」などは解雇することがあるとしています。

 一方で労働契約法16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。

 勤務態度不良により解雇した場合、どのようなケースでは解雇が有効とされ、どのようなケースでは権利を濫用したものとして無効となっているかを判例に従ってみていきたいと思います。

介護離職防止のための制度の周知の強化について(2)

 介護休業法が改正され、事業主は雇用する労働者に対する介護休業に係る研修の実施や介護休業に関する相談体制の整備措置などを講じる必要があります。

 相談体制の整備は中小企業にとっては負担となる可能性がありますが、専門家は「母親が認知症になったと言ってきたら『地域包括支援センターに行きましたか』といったやり取りだけでも相談になる。上司や人事などに相談できる仕組みがあれば問題はない」と言います。

 人手不足が叫ばれる中、介護離職をさせないための対応がますます重要になります。法改正の趣旨を踏まえた社内の整備を急ぐ必要があります。

介護離職防止のための制度の周知の強化について

 今国会で介護休業制度に改正がされ、その趣旨は「仕事と介護の両立支援制度の周知の強化」にあります。

 今回の改正のポイントは次の二つです。

  • 家族の介護の必要性に直面した労働者が申し出をした場合に、事業主が、両立支援制度等に関する情報を個別に周知し、意向を確認することを義務づける

 

  • 介護保険の第2号被保険者となる40歳のタイミング等に、事業主が労働者に対して、介護に関する両立支援制度等の情報を記載した資料を配布する等の情報提供を一律に行うことを義務づける

 

 さらに、今回の改正では介護休業等の申し出を円滑に行うための雇用完了に関する措置も事業主に義務付けられました。

 この点については次回、確認したいと思います。

雇用保険法の改正のポイントと影響(3)

教育訓練受講中の生活給付の創設

 現在は労働者が在職中に自発的に職業に資する教育訓練を受けるために休暇(教育訓練休暇)を取ったりして仕事を離れても、訓練期間中の生活を支援する仕組みがありません。そこで、被保険者期間が5年以上ある者が無給の教育訓練休暇を取得した場合、教育訓練休暇給付金として賃金の一定割合を支給することになりました。給付内容は被保険者が離職した場合に支給される基本手当と同額で、給付日数は被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれかとなります(2025年10月1日施行)。

その他

 以上の他、受講費用の一部が支給される教育訓練給付金においては、一定の要件を満たせばさらに10%が追加支給されることになりました(2024年10月1日施行)。現在、再就職に伴って支給される就業手当の廃止や就業促進定着手当の上限を基本手当の支給残日数の20%(現行は40%)に引き下げるなどの改正もあります(2025年4月1日施行)。また、失業中の受給資格者が認定期間中に働いて収入を得た場合の基本手当の減額規定が削除されました。

雇用保険法の改正のポイントと影響(2)

被保険者期間の計算の見直し

 被保険者の適用拡大に伴い、被保険者が失業した場合に支給を受ける基本手当(失業手当)の受給要件の見直しも行われました。基本手当の支給を受けるためには、離職日から遡って前2年間に雇用保険の被保険者であった期間が12カ月以上(会社の倒産、解雇、雇止め等の理由により離職した場合は離職日前1年間に6カ月以上)なければなりません。現行法での「被保険者期間1カ月」とは、賃金の支払いの基礎となった日数が11日以上ある月または賃金の支払いの基礎となった労働時間数が80時間以上である月をいいます。改正法では、「賃金の支払いの基礎となった日数が6日以上ある月」または「賃金の支払いの基礎となった時間数が40時間以上ある月」を被保険者期間1カ月とすることになりました。

 

給付制限の見直し

 現在は自己都合で退職した者が基本手当を受けるためには、原則として2カ月間の給付制限期間が設けられており、その間は失業していても基本手当の支給を受けられません。しかし、今回の改正では給付制限期間を1カ月とし、失業期間中や離職日前1年以内に、雇用安定及び就職促進に資する一定の教育訓練を受講した場合には、この給付制限が解除されます(2025年4月1日施行)。これにより、失業中でも一定の生活費を確保しながら教育訓練を受けられ、転職に有利に展開することが可能となります。ただし、5年間で3回以上自己都合で離職した場合の給付制限期間「3か月」についての変更はありません。

 

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