試用期間中の私傷病による休職者への対応
私傷病による休職制度を設けている企業は多いですが、法的には必ず設けなければならないものではありません。したがって、休職制度を設けるか否か、また設ける場合でもその適用対象労働者、適用条件(勤続年数など)をどのような基準にするかは会社の裁量です。
休職制度がある企業でも、試用期間中および勤続年数が短い(勤続1年未満など)従業員を適用対象外とするのが一般的です。しかし、このように試用期間中の者、または勤続年数が短い者が私傷病で中長期的に労務不能となった場合で休職制度がない場合、または休職制度があっても適用対象外となる場合に、どのように対応すべきかが問題となることがあります。
そもそも、労働契約とは、労働者が会社の指揮命令に従って健全な労務提供をし、会社がその対価として賃金を支払う契約です。私傷病が原因で仕事ができなければ労働契約上の債務不履行となりますので、会社はその労働契約を解約(解雇)できます。しかし、労働者を解雇するにあたっては労働契約法第16条に基づき、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その権利を濫用したものとして解雇は無効となります。
試用期間は「解雇権留保付き労働契約」といい、会社は、試用期間中に採用した労働者の適格性などを含めて本採用するか否かを判断し、本採用しないときは、試用期間中に解雇または試用期間満了後に本採用拒否(=解雇)することになります。試用期間中は解雇権が留保されているので本採用後解雇よりは労働契約解消に係る使用者としての裁量権は広くなるものの、労働契約法第16条に基づき解雇の有効性が問われます。
試用期間中に労働者が私傷病のために一定期間、継続的に欠勤することは、試用期間中に習得すべき業務知識が習得できないということにもなります。したがって、解雇が認められやすいともいえます。しかし、私傷病による欠勤とはいえ、一時的に休ませることにより復職し、問題なく通常業務できることが見込まれる場合には、試用期間中における労務不能を理由に即座に解雇すると、不当解雇と判断される可能性が高くなります。
また、就業規則上において休職制度を設けている会社であっても、就業規則に解雇の事由として、「精神又は身体の障害により、業務に耐えられないと会社が認めたとき」などと定められている場合は、それを根拠として解雇することができることになります。
しかし、私傷病により一時的に欠勤していることだけで労働契約上の債務不履行を理由に解雇が有効となるものではありません。1,2カ月程度の休業によって療養すれば職場に復職できることが明らかな場合は、解雇が認められないと判断されることもあります。また一定期間療養すれば元の職務に復帰できなくても配置転換や職務変更することで早期に職場復帰が見込まれる場合には、解雇無効となる可能性が高くなりますので慎重に判断しなければなりません。
私傷病での労務不能による解雇は、労働紛争に発展することが多いので、労務不能となる期間がどの程度の長さか、一部でも就労可能なのかどうかなどを総合的に判断する必要があります。
場合によっては、療養中の労働者に退職の意向を確認しつつ、退職勧奨を実施し、一定の条件をもとにした退職合意による退職の選択が可能であると提示することなども検討すべきでしょう。
加給年金の支給停止の制度改正について
厚生年金に20年以上加入している方が生計を維持している配偶者、子がいる場合は老齢厚生年金に加給年金というプラス部分が加算されます。
加算されるのは配偶者が65歳になるまでや子が18歳の年度末(障害のある子の場合は20歳の年度末)までとなります。
配偶者の条件としては生計を維持していること以外に、配偶者が20年以上の被保険者期間のある厚生年金などを受けていないことが条件となっております。
令和4年4月からの制度改正で変更になったのは厚生金に20年以上加入している配偶者の年金が支給停止になっていた場合のケースになります。
これまでは配偶者に20年以上の厚生年金加入期間があっても、働いているため老齢年金が全額停止になっている場合は加給年金の支給がされてきました。
改正では全額支給停止になっていても受給権があれば加給年金が支給されなくなり、夫婦ともに厚生年金に20年以上加入している方の場合、加給年金は支給されにくくなりました。
ハラスメント窓口の整備について
ハラスメント防止のための措置義務の一つとして、相談に応じて適切に対応するための体制を整備しなければなりません。具体的には相談窓口を設置するということになりますが、ただ形式的に設ければよいというのではなく、ハラスメント問題解決に向けた初動対応のほか、ハラスメントを未然に防止するための重要な窓口となりますので、きちんと機能するように体制を整備する必要があります。
まずは、従業員に対して相談窓口の存在をしっかり周知することです。そして、体面による相談だけでなく、電話やメールといった複数の方法を選べるようにすること、安心して相談できるように場所や時間帯などについても考慮しましょう。
相談窓口の担当者の対応では、公正かつ真摯であることが求められ、ハラスメントによりうまく話せない人に対してもじっくり耳を傾けて、その意向を正確に把握する必要があります。
相談事案に対しては、個別に適切な対応をとることになります。注意して見守る場合もあれば、上司・同僚などを通じて間接的に行為者に注意を促したり、行為者に対して直接注意するなど事案に即した対応が必要です。
ですから、会社として相談を受けた後にどのような対応をとるか、一連の流れについてあらかじめ決めておき、必要に応じて人事部門やその他関係部署を連携を図れるようにするなど体制を整備するようにします。
パワハラによる労災の認定基準の具体例
厚生労働省より心理的負荷による精神障害の労災認定基準が変更になったことを前回述べました。
具体例として様々なケースが挙げられておりますが、今回はパワーハラスメントについて具体例を確認してみたいと思います。
上司等によるパワーハラスメントでは反復継続性が心理的負荷の「強」と「中」を分けています。人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要 性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃や無視等の人間関係からの切り離しが反復継続性を持っている場合は「強」となり、持っていない場合は「中」に該当すると例示されています。また、パワハラがあることを認識していながら会社側が適切な対応をしていない場合も「強」に該当するとなっています。
同僚等の嫌がらせについても同様に反復継続性や会社側の適切な対応の有無により心理的負荷の「強」「中」を区別しています。
心理的負荷による精神障害の労災認定基準
厚生労働省では、9月1日に心理的負荷による精神障害の認定基準を改正しました。これは業務により精神障害を発病された方に対して、改正後の本基準に基づき、一層迅速・適正な労災補償を行っていくための措置となります。
主な改正点としては「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」といういわゆるカスタマーハラスメントの追加、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」ことによるものの追加があります。
また、改正前は「おおむね6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ」ならないとしていたのを、「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により 悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める」と変更されました。
具体的な例もより詳細に分かるようになっておりますので、速やかな労災補償を行うことももちろん重要ですが、そういった心理的負荷に留意していくことが求められます。
労働争議について
昨日、西武池袋本店でストライキが行われ注目を集めましたが、労働争議そのものは減少傾向にあります。
令和4年の労働争議は270件、総参加人員は53519人となっています。前年に比べ件数は9.1%、総参加人員は11.4%の減少で過去2番目に低くなっています。
労働争議の数が最大だったのは昭和49年(1974年)の10462件ですが、10年後の昭和59年(1984年)には4480件、さらに10年後の平成6年(1994)は1136件と急激に減少しているのが分かります。
昨年の主な要求事項は賃金が139件(全体の51.5%)で最も多く、組合保障及び労働協約に関する事項が103件(38.1%)、経営・雇用・人事に関する事項の98件(36.3%)となっており、全体の約75%が解決又は解決扱いになっています。
休日出勤した社員から振替休日を半日ずつ2日に分割して取得したいと申し出があった場合の対応は?
仕事が忙しいときに、社員に休日出勤を命ずる場合があります。労働基準法上、使用者は労働者に対して、少なくとも週に1回(または4週を通じて4日以上)の休日を与えなければなりません(第35条)。これを法定休日といいます。また完全週休2日制を採用している場合は、法定休日を上回る法定外休日を与えていることになります。
繁忙期などに、いずれの休日であっても社員に休日出勤を命じた場合の代替措置として、所定の労働日を休日に振り替えることがあります。これを「振替休日」といいます。
休日出勤に対する振替休日を、何らかの定めもなく一方的に命ずることはできません。振替休日を行うためには、就業規則または労働協約(以下、就業規則等)において、休日と労働日を事前通知により振替ができる旨が定められているか、または、労使間で休日の事前振替をする旨の個別同意がなければなりません。
したがって、会社は休日出勤をした社員に対して、振替休日を行う場合には、休日出勤前にあらかじめ振り替えて休日となる労働日を指定する必要があります。休日出勤をさせた後に休日を指定することは、振替休日とはならず、代休(休日出勤をさせた代わりに後に任意の日に休日を与える措置)となってしまいます。なお、振替休日による場合でも、前述の法定休日は確保されなければなりません。
ところで、休日とは、労働契約において労働義務がないとされている日をいい、原則として暦日(午前0時から午後12時までの24時間)を単位としています(昭23.4.5基発535号)。
したがって、振替休日も暦日を単位として与えなければならず、半日に分割することは休日を与えたとは見なされません。半日でも労働するということは、その日は労働日となり、休日を与えたことにならないのです。
なお、前述のとおり、休日には法定休日と法定外休日があります。法定休日出勤を振替休日とする場合には暦日24時間で与えなければなりませんが、法定外休日については半日単位での取得が可能です。したがって、振替休日の運用にあたっては法定休日が確保されている限り、法定外休日の振替休日については、半日単位で取得することも可能である旨を就業規則等で定めておくなどの対応が必要でしょう。
休日出勤については、それが法定休日出勤であれば、割増賃金として休日出勤の労働時間に応じて1時間当たり3割5分以上の割増賃金を支払わなければなりません。しかし、振替休日による場合には、休日と労働日を振り替えたことになるので割増賃金の支払いが不要となります。
しかし、振替休日が休日出勤と同一の週内で行われることなく、週をまたいで振り替えるなどにより、結果として休日出勤をした週の労働時間が法定労働(週40時間)を超えた場合には、その超過分につき1時間当たり2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。
法定外休日に出勤した場合についても、週1日の休日は確保されているとはいえ、法定外休日に休日出勤をさせた結果、週40時間を超えて労働させることとなった場合には、その超えた労働時間については割増賃金を支払わなければなりません。なお、法定外休日については、割増賃金を支払うことで振替休日を与えないとすることができます。
すべての都道府県で最低賃金の答申
- 答申のポイントは以下になります。
- 47都道府県で、39円~47円の引上げ(引上げ額が47円は2県、46円は2県、45円は4県、44円は5県、43円は2県、42円は4県、41円は10都府県、40円は17道府県、39円は1県)
- 改定額の全国加重平均額は1,004円(昨年度961円) ※昨年度との差額43円には、全国加重平均額の算定に用いる労働者数の更新による影響分(1円)が含まれている
- 全国加重平均額43円の引上げは、昭和53年度に目安制度が始まって以降で最高額
- 最高額(1,113円)に対する最低額(893円)の比率は、80.2%(昨年度は79.6%。なお、この比率は9年連続の改善)
答申された改定額は、都道府県労働局での関係労使からの異議申出に関する手続を経た上で、都道府県労働局長の決定により、10月1日から10月中旬までの間に順次発効される予定です。
男女格差にオールジャパンで対応を
日本の男女格差指数が最低順位を更新したことに触れましたが、政府は「女性版骨太の方針2023」で女性活躍を推進する観点から、東証プライム市場の上場企業を対象に2025年までに女性役員を一人以上、2030年までに女性役員比率を3割以上とする目標を掲げています。
また、女性活躍推進法の改正によって従業員300人超の企業における男女賃金差の開示が本格的に始まるなど、新たな施策も打ち出されていますがその実行力は未知数です。
勤続年数に強くリンクした報酬システムや固定的な性別役割分担意識など、長い間に染み付いた意識を変えていくことは容易ではありません。企業規模に関係なく、オールジャパンで男性中心でない多様な価値観や考え方によって企業を成長させていくことが強く求められているといえるでしょう。
男女格差指数で後退
今年も世界経済フォーラムから世界の男女平等度のランキングであるジェンダーギャップ指数が公表されました。
日本の順位は146ヶ国中125位で最低順位を更新し、主要7ヶ国(G7)では最下位です。
同指数は政治・経済・教育・健康の4分野14項目の男女格差を総合して数値化しています。完全な平等が「1」とされ、日本の指数は0.647で世界平均の0.684を下回っています。
同一労働における賃金格差が0.621、推定勤労所得が0.577、管理職的職業従事者の男女比が0.148となっており、政治や経済分野が全体の足を引っ張っています。