お知らせ
雇用保険法の改正のポイントと影響(2)
被保険者期間の計算の見直し
被保険者の適用拡大に伴い、被保険者が失業した場合に支給を受ける基本手当(失業手当)の受給要件の見直しも行われました。基本手当の支給を受けるためには、離職日から遡って前2年間に雇用保険の被保険者であった期間が12カ月以上(会社の倒産、解雇、雇止め等の理由により離職した場合は離職日前1年間に6カ月以上)なければなりません。現行法での「被保険者期間1カ月」とは、賃金の支払いの基礎となった日数が11日以上ある月または賃金の支払いの基礎となった労働時間数が80時間以上である月をいいます。改正法では、「賃金の支払いの基礎となった日数が6日以上ある月」または「賃金の支払いの基礎となった時間数が40時間以上ある月」を被保険者期間1カ月とすることになりました。
給付制限の見直し
現在は自己都合で退職した者が基本手当を受けるためには、原則として2カ月間の給付制限期間が設けられており、その間は失業していても基本手当の支給を受けられません。しかし、今回の改正では給付制限期間を1カ月とし、失業期間中や離職日前1年以内に、雇用安定及び就職促進に資する一定の教育訓練を受講した場合には、この給付制限が解除されます(2025年4月1日施行)。これにより、失業中でも一定の生活費を確保しながら教育訓練を受けられ、転職に有利に展開することが可能となります。ただし、5年間で3回以上自己都合で離職した場合の給付制限期間「3か月」についての変更はありません。
雇用保険法の改正のポイントと影響
雇用保険法が2025年4月1日以降順次施行となりますが、被保険者の適用拡大、給付制限の見直し等、企業および労働者に影響があるものとなっています。
まず、これまで雇用保険の加入対象でなかった方も対象になる改正が行われました。
現在、雇用保険の被保険者となるには、①1週間の所定労働時間が20時間以上であること、②31日以上雇用される見込みがあることの2つの要件を満たさなければなりません。しかし、週の就業時間が20時間未満の労働者が増加していることなど、働き方や生計維持のあり方の多様性が進展するなかで、雇用のセーフティーネットを広げるために、「週20時間以上」から「週10時間以上」に引き下げることになりました(2028年10月1日施行)。
これにより、最大500万人程度が新たに雇用保険の適用を受けることが見込まれます。パートタイマー等の短時間労働者となる雇用者が増えることにより、法定福利費の負担が一層増えることになります。
採用した従業員から身元保証書の拒否があった場合、採用取り消しは可能か?
身元保証書の提出義務は、たとえば、内定通知書や就業規則の「採用」の条項に身元保証書を提出書類として定め、さらには「入社日前日までに提出しない場合は内定を取り消す」または「入社日から2週間以内に提出がない場合には採用を取り消す」などの提出期限を定めておくべきでしょう。
なお、身元保証書の提出を拒否し、解雇が有効となった判例としては、シティズ事件(東京地判/平成11.12.16)があります。この事件では、会社は金銭を扱うので、横領などの事故を防ぐために、社員に自覚を促す意味も含めて身元保証書の提出を採用の条件としていました。裁判所は、身元保証書の提出しないことは、「社員としての適格性に重大な疑義を抱かせる重大な服務規律違反又は背信行為」と判断し、解雇を有効としています。このように争った場合には、会社としては身元保証を求める理由を整理しておく必要もあります。
身元保証書を求める場合に注意すべき点として、身元保証期間と損害賠償の限度があります。身元保証期間を定める場合は上限5年、定めがなければ3年とされ(身元保証に関する法律第2条第1項)、自動更新の規定は無効となります。期間満了後も身元保証人を必要とする場合、その都度、身元保証契約を締結しなければなりません。また、2020年民法改正により、身元保証書(身元保証契約)に損害賠償を定める場合には賠償額の上限(極度額)を定めなければならいことになり、その定めがない身元保証書は無効となります(民法465条の2)。これは、無制限に損害賠償責任を負う恐れがあることに対して身元保証人を保護するためのものです。極度額としては、裁判例によりますが100万円から年収分などとすることが多いようです。
採用した従業員から身元保証書の拒否があった場合、採用取り消しは可能か?
従業員の採用に伴い、身元保証書の提出を求める会社があります。身元保証書は、採用された者の学歴、職歴等を含めた人物保証をするためのものです。また、横領や機密漏えい、不法行為などにより故意に企業に損害を与えて損害賠償請求が発生した場合で、本人の支払い能力を超える場合に保証人への請求を可能にすることも目的としています。最近は、従業員が突然、出社せず音信不通になったり、行方不明になったりする事案も有りますので、緊急連絡先として身元保証人を連絡先としておくことも必要です。
身元保証人の人数は1名とするのが一般的ですが、会社によっては2名求める場合もあります。たとえば、1名は「親族」、もう1名は親族以外で「独立した生計を立てている人」などです。しかし、人によっては、身元保証人となる親族などがいない場合もあります。このような場合には、民間会社やNPO法人などの有料の身元保証人サービスを使い身元保証人を立てることもできます。
では、身元保証書の提出を強制することができるかというと、労働基準法では身元保証についての定めはないので、法的根拠をもって強制することはできません。他方、会社にも「採用の自由」がありますので、身元保証書の提出を強制できなくても、提出しない者を採用しないことはできます。
ただし、採用を内定した者や試用期間中の者に対して、身元保証書の提出しないことを理由として採用を取り消す場合は解雇扱いとなりますので、正当な理由なく内定取消または解雇することはできません。したがって、その根拠として就業規則等に身元保証書の提出義務が定められていることが前提となります。
具体的な注意点や、実際の事例などを次回確認したいと思います。
整理解雇について(7)
所属部門の閉鎖に伴う解雇について争われた事件の第3次の裁判所の判断は解雇権の濫用にはあたらないとしたものでした。
「雇用契約の終了は労働者にとって当面の生活の維持に重大な支障を来すものであるから、生活維持・再就職の便宜について相応の配慮を行うとともに、雇用契約を解消せざるを得ない事情について労働者の納得を得るための説明など、誠意を持った対応」が求められるとされています。
本件では他社の経理部に市場価格としては最高限度の年収でポジションを提案し、さらに退職後1年間については補助として200万円を加算すると提案しました。
労働者・組合とも三か月にわたって全7回交渉を行い、雇用契約を解消せざるを得ない事情を説明していました。
これらの対応が誠意ある対応と認められ、解雇が有効であるとされました。
整理解雇について(6)
前回までで見た銀行の所属部門が閉鎖されることに伴って解雇の対象となった事件では、地位保全の仮処分の申し立てが行われ、整理解雇の4要件について異なった裁判所の判断が下されています。
第2次の判断では、閉鎖される部門に所属していたことで対象とされたのは合理性があり、労働者や労働組合と十分な話し合いが行われたと評価していますが、「解雇によって達成しようとする経営上の目的とこれを達成するための手段である解雇ないしその結果としての失職との間には均衡が失われている」ことから、解雇の権利の濫用として無効としています。
第3次の判断では、また異なった見解がしめされていますので、次回以降に確認したいと思います。
整理解雇について(5)
前回見た銀行での整理解雇が無効と判断された例では、回避努力がなされていなかった点も指摘されています。
銀行側は組合との団体交渉の実施に消極的であり、労働者・組合が職務や賃金条件の変更の上での勤務継続の希望を表明したにも関わらず、当所の応諾期間を堅持し、その後の交渉を一切拒絶しました。
これらの点から解雇回避努力を尽くしたとは認められず、労働者や労働組合との誠意ある協議を行ったとも認められませんでした。
以上の点を踏まえて、人員削減の必要性を直ちに否定できないものの、それ以外に要件を充たしておらず、この解雇は権利濫用による無効とされました。
可能な限り雇用の継続を図ろうとした学校法人の例と、交渉の拒絶した銀行での例の対照的な点が分かるかと思います。
整理解雇について(4)
前回までは整理解雇の4要件を満たし、有効である例を見てきましたが、今回は整理解雇が無効であると判断された例を見ていきたいと思います。
銀行の所属部門が廃止された結果、担当業務が消滅し余剰人員となったとして解雇されたことを争った事例では、解雇が無効であると判断されています。
この判例では4要件についてそれぞれどのように判断され、解雇が無効と判断されたかを確認していきたいと思います。
まず、整理解雇の必要性についてですが、部門の閉鎖が経営方針の転換から行われ、経営悪化に伴う人員削減が不可避ではなかったとしています。
次に整理解雇の基準については「閉鎖される部署に属していたことで解雇の対象となっているが、対象者の選定の基準も設定されず、偶然性に左右され公平さを欠く」としています。
法科大学院そのものが廃止となり整理解雇の対象の基準を示していた先の事例との違いがよくわかると思います、
整理解雇について(3)
前回の例に挙げた学校法人では、解雇された教員の意向に沿って雇用維持の方策を模索し、法学部における担当科目の確保を2度にわたって試みています。
また、それが実現できなかったことを踏まえ、解雇された教員と繰り返し協議を行い、教員組合や人事公正委員会での審議も経たうえで解雇を行っています。
裁判所はこうしたことや実務家教員以外の職種への配置転換を想定されていなかったことを踏まえ、「十分な解雇回避努力、解雇に伴う不利益軽減措置をしており、本件解雇に至るまでの手続きも相当であった」と解雇の有効性を認めました。
整理解雇について(2)
学校法人と無期労働契約を締結していた大学院の教員が法科大学院の廃止により解雇されたことについて、整理解雇が有効であると判断された例を見てみましょう。
この学校法人では解雇の約4年5か月前に法科大学院の学生募集を停止する旨の発表を行い、解雇の8か月前に法科大学院を廃止しています。
この教員は法科大学院では弁護士としての経験を活かし、法律実務教育に従事することを期待されて雇用された実務家教員であり、弁護士業務との兼任も認められていました。
裁判所は「実務家教員以外の職種に配置転換は想定されていなかった」として、「法科大学院の廃止に伴い実務家教員の雇用を終了することとした判断は合理性を有し、実務家教員の人員削減の必要性及びその対象として原告を選定したことの妥当性は認められる」としました。