判例研究
能力不足解雇 判例2-1
前回の判例では能力不足解雇が認められなかったケースを紹介しましたが、今回は能力不足解雇が認められたケースです。
営業経験者としてそれに見合う待遇で雇用された従業員に対し、会社側は営業成績不良及び勤務態度不良で就業規則に定められた「勤務成績または能率が不良で就業に適しないと認められた場合」に該当するとして解雇しました。
この従業員の営業成績は、売り上げ目標年間1億円に対し8カ月で1500万円余りと、他の社員が目標の70%程度の売上実績を上げているのに比べ非常に低い成績となっています。
また、日報などの書類の提出期限を守らない、会議に遅れる、約束の時間を守らない、全員で行うべき棚卸業務を行わないなど協調性に欠けるなど勤務態度が良くありませんでした。上司、社長からの再三の注意指導にも関わらず、営業成績も勤務態度も改善しなかったことも認められ、解雇は有効と判断されました。
制服の着替えに要する時間は労働時間か?(2)
本件では就業規則で「社員は制服を貸与され、又は使用することとされている場合には特に許可があったときを除き、勤務中これを着用しなければならない」と定めています。この規程は期間雇用社員、アソシエイト社員など他の種類の社員にも準用されています。
その上で判決は「ユニフォームを着用しての通勤を禁止していることを窺わせる資料があるほか、ほとんどの従業員が局内に設置された更衣室で更衣を行っていたという実態がある一方、ユニフォームを着用しての通勤が許される旨の告知がされたことはない」とし、「局内の更衣室において、制服を更衣するよう義務付けていたものと認めるのが相当である」と述べています。
郵便局側は実態として制服を着用して通勤している者がいるということを主張しましたが、これらの者が義務付けに反しているとみるのが相当であり、制服を着用して通勤している者が一部に存在することをもって、制服での通勤を許容していたと認めることはできないとその主張を退けています。
結論として制服の更衣に係る行為は指揮命令下に置かれたものであり、更衣に要する時間は労働時間に該当すると判断されました。
制服の着替えに要する時間は労働時間か?
労働基準法上の労働時間はこれまでの判例で「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義され踏襲されてきました。ただし、労働時間が実作業時間であるとしても、仕事や職務への使用者の関与の程度や本来の作業時間との関連性の程度からさまざまな具体的問題も生まれます。本件の更衣時間もその一つです。
更衣時間に関しては、一般的に制服の着用が義務付けられている場合や着替えの場所が指定されている場合、安全衛生面から制服の着用が必須である場合は労働時間とみなされます。郵便局員が、着用を義務付けられている制服の更衣に要する時間は労働時間に該当するかと争った事例を見てみたいと思います。
能力不足解雇 判例1-3
この判例のポイントをまとめてみましょう。
・該当社員の能力が平均的な水準に達しておらず、外注先から苦情を受けたことなどは認められた。
・相対的に劣っているからといって、解雇事由に該当はしない
・解雇に該当するかは非常に厳しく判断される。
・能力の向上を図る指導が十分でないと判断された。
解雇無効と判断されたこの判例に対し、能力不足を理由に解雇するにはどのようなケースが該当するのか、向上の見込みがないとはどのようなケースになるのかを能力不足解雇が認められた判例を通して確認したいと思います。
能力不足解雇 判例その1ー2
前回見たように会社側としては労働能力や適格性に欠けるとして主張しましたが、裁判所はこれを退けています。
会社側の「やる気がない、積極性がない、意欲がない、協調性がない」という主張は、これらを裏付ける具体的な事実の指摘はないとして会社側の主張を認めていません。
裁判所は就業規則に示されている解雇事由を限定的に捉えており、これに該当するためには「平均的な水準に達していないというだけでは不十分で、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならない」としています。
また、相対的な評価を前提にすることは相対的に考課順位の低い者の解雇を許容することになり、それは認められないとしています。
向上の余地についても平均的前後の試験結果であった技術教育を除き、教育・指導が行われた形跡がないとして体系的に教育指導を行えば、向上の余地ありとしています。
能力不足解雇 判例その1ー1
これは単なる能力不足では解雇できないという判例です。
このケースでは就業規則で解雇について「精神または身体の障害により業務に堪えないとき。」や「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき。」などと定められており、会社側はこの「労働能率が劣り、向上の見込みがないと認めたとき」に該当するとして解雇しました
会社側は様々な主張で該当社員の能力に問題があったとしており、裁判においても以下の点が認められました。
1,人事部採用課に所属していた際、寝坊して飛行機に乗り遅れて会社説明会に行けなかった。
2、人材開発部に所属していた時、研修を円滑に進行させることができなかった
3,企画制作部に所属時、外注先から担当者を代えてほしいと苦情を受け、担当を代えざるを得なかった
4,過去1年間の人事考課で役員の除く全従業員の下位5%に該当する
5,労働能率が平均的な水準に達しているといえない
このように、裁判所も該当社員の能力を「業務遂行は、平均的な程度に達していなかったというほかない」としていますが、なぜ解雇無効と判断したのでしょうか。
解雇無効と判断された理由を次回見ていきます。
能力不足による解雇についての判例
厚生労働省の示すモデル就業規則では、「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。」や「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換 できない等就業に適さないとき。」などは解雇することがあるとしています。
一方で労働契約法16条では「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。
勤務態度不良により解雇した場合、どのようなケースでは解雇が有効とされ、どのようなケースでは権利を濫用したものとして無効となっているかを判例に従ってみていきたいと思います。
覚せい剤逮捕による退職金不支給は相当
多くの企業の就業規則等には、懲戒解雇の場合は退職金を不支給とする旨の定めが設けられています。
しかし、懲戒解雇であることだけで、退職金を不支給にすることは認められないとする判例が多くあります。
今回見る事例では、覚せい剤の所持および使用により懲役2年執行猶予3年の有罪判決を受けた者に対し、会社側は懲戒解雇とし、退職金を不支給にしました。これに対し、原告(解雇された者)は過大な措置だと主張し退職金の支払いを求めました。
裁判例や他の処分事例と比べて不均衡だと主張する原告に対し、裁判所は「本件犯罪行為はいずれも10年以下の懲役に処すべきとされる相当重い犯罪類型」であり、「永年勤続の功労を抹消するほどの不信行為」であるとして退職金の全部不支給を相当としました。