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年収の壁対策 社会保険適用促進手当 まとめ
これまで説明してきた社会保険適用促進手当について、助成金を受けるうえでポイントをまとめたいと思います。
- 助成金の対象となるのは6か月以上勤めてから社会保険に加入した方
- 対象となる方の賃金は107000円まで
- 保険料の計算の基礎から除けるのは新たに発生する保険料分が限度
- 期限を定めた措置とすることができるが、その場合は就業規則にその旨を記載すること
- 手当の名称は「社会保険適用促進手当」とすること
以上が主なポイントになります。
助成金の申請を考えている場合は、上記の点に気を付けてください。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(6)
これまで説明してきました社会保険適用促進手当は、支払のタイミングや方法については事業主ごとに決定できるので、必ずしも毎月支払う必要はありません。
ただし、保険料の算定から除くことができるのは手当を支払った月の保険料相当額となりますので、注意が必要です。
例えば、3ヶ月分の社会保険料相当額を手当として12月に支給した場合、保険料の算定から除くことができるのは12月の一ヶ月分の保険料となります。
社会保険に加入したことで新たに発生した保険料分を、事業主が全額手当で補おうとする場合は、毎月支給する必要があります。
また、毎月支払う場合は割増賃金の基礎となりますが、1ヶ月を超えるごとに支払う場合は割増賃金の算定基礎に含まれないという違いもありますので、どちらが良いかはそれぞれの利点を考える必要があります。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(5)
年金機構からは「社会保険適用促進手当」の名称で支給するように指示されています。
これは事後的に標準報酬に間違いがないか確認する際に、算定から除いたことが分かるようにするとともに、キャリアアップ助成金の申請をスムーズに進めるためとされています。
他の名称を使用して手当を支給し、保険料の算定から除いていた場合、算定金額についての争いが起こった際にどの金額が算定から除かれていたか分かりにくくなります。このようなトラブルを避けるためにも「社会保険適用促進手当」の名称の使用をお勧めします。
また、算定から除ける上限を超えて手当を支給する場合は超える部分について別の名称の使用を推奨しています。
これもどこまでが算定の対象外となるのかといった混乱を避けるための措置となります。
社会保険適用促進手当を設ける場合は、明確に「この手当は保険料の算定から除いている」ということが分かるようにしましょう。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(4)
社会保険適用促進手当をも受けることで助成金の対象となるのは6ヶ月以上継続して支給事業主に雇用されていることが必要であると、前回述べました。
助成金の対象とならないとして、5カ月前から勤めていた方が社会保険に加入した場合やすでに社会保険に加入していた方を手当の支給対象外とすることは可能でしょうか。
これは可能と示されています。
また、不公平であるとして同条件で働く既に社会保険が適用されている労働者に対して、社会保険適用促進手当を支給することも可能です。ただし、助成金の対象とはなりません。あくまで標準報酬月額の算定に含めないことが認められます。
この手当は社会保険料が発生することで手取り収入が減少することを防ぐ目的となりますので、手当の上限は本人負担の社会保険料相当額となっています。「社会保険適用促進手当」とすればいくらでも保険料の算定の計算から除くことができるわけではないことにも注意してください。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(3)
今回は社会保険適用促進手当を支給し、助成金を受けるうえでの注意点について説明します。
前回までに説明したように、この手当は社会保険に適用されるようになった労働者の健康保険料・厚生年金保険料の算定から除くことができますが、対象は標準報酬月額が10.4万円以下の者に限られます。
つまり新たに社会保険に加入することになる労働者でも、標準報酬月額が110000円となる方(=月の給与が107000円を超える方)はこの措置の対象となりません。
また、キャリアアップ助成金の対象となるのは6か月前の日から継続して支給対象事業主に雇用されている労働者に限られます。
前の会社で社会保険に加入していなかった方が新しい会社で社会保険に加入した場合、勤め始めてから6ヶ月未満の労働者が社会保険に加入した場合は社会保険適用促進手当を設けても助成金の対象外となるので注意が必要です。
年収の壁対策 社会保険適用促進手当(2)
前回に引き続き、社会保険適用促進手当について解説したいと思います。
社会保険適用促進手当は、健康保険・厚生年金保険料の算定の基礎となる標準報酬月額から除くことができるものですが、これは一時的な措置となる見込みです。
対象の労働者に対して最大2年間と定められており、令和7年度末までに対象とした場合とされています。
従って令和8年度以降にこの措置を適用して標準報酬月額を抑えることはできませんし、2年を超えてこの手当を標準報酬月額の算定から除くことはできません。
最大2年間の措置となりますので、この手当を2年間で取りやめることも可能と示されています。
その場合は就業規則に「一定期間に限り支給する」旨の規定を設けるようしましょう。
このように不利益変更の問題が生じないように注意が必要です。
年収の壁対策(社会保険適用促進手当①)
年収の壁対策として社会保険適用促進手当が新設されましたが、どのようなものなのでしょうか。
これはそれまで社会保険に加入していなかった労働者が加入することになった場合、新たに発生する社会保険料の額を上限として、健康保険や厚生年金の保険料を求める際の計算から除外できる手当となります。
健康保険・厚生年金の保険料の計算は、一定の範囲の区分ごとに分けられた標準報酬月額という金額に保険料をかけることで求められます。
1ヶ月の給与が83000円~93000円の方は88000円、93000円~101000円の方は98000円などとなります。
88000円という区分が、厚生年金に加入する基準となる等級ですが、この等級で健康保険と厚生年金に加入することになった場合、最低でも10952円の保険料が本人の負担となります。
この新たに発生した本人負担分の保険料を会社が手当として支給した場合、手当分を保険料の計算の基となる標準報酬月額から除くことができるというものが社会保険適用促進手当になります。
これによって手当を支給する→報酬増額→保険料も増額といったケースを防ぐことが社会保険適用促進手当の目的となります。
次回以降、さらに詳しくこの手当について解説したいと思います。
年収の壁対策の施策
年収の壁対策の施策が令和5年10月20日より開始されました。
正式名称は「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」になります。
検討段階で示されていた支給される助成金の額や要件などに変更はありませんでしたが、新たに対象となる労働者の範囲などが示されました。
6か月以上その事業所で継続的に雇用されていることと、2年以内にその事業所で社会保険に加入していなかったことが必要になります。
つまり、入ったばかりの方が社会保険に加入することになった場合は対象外となります。
また、社会保険に加入していたが労働時間を減らして配偶者の扶養になった方が、再度労働時間を長くして社会保険に加入した場合も対象外ということになります。
社会保険に新たに加入した人が誰でも対象となるわけではないので、注意が必要です。
定年後再雇用者の基本給のあり方への影響
定年再雇用後の再雇用で基本給や賞与が引き下げられたのは不当だとして、名古屋自動車学校(愛知県名古屋市)の元職員の男性2人(A氏、B氏)が差額分の支払いなどを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁判所は7月20日、基本給が正社員の60%を下回るのは違法とした名古屋高等裁判所の二審判決について、「基本給と賞与の支払い目的・性質や労使交渉の経緯について検討が不十分である」として破棄し、審理を同高裁に差し戻しました。これは、基本給等の賃金格差をめぐる「同一労働同一賃金」に関する事件です。
事件の概要
名古屋自動車学校の元職員2人は教習指導員として2013年及び2014年に60歳を迎え、定年後は同社の継続雇用制度に基づき、引き続き教習指導員(嘱託職員)として勤務していました。ただし、再雇用にあたっては主任の役職を退任したこと以外、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)に定年前との相違はありませんでした。
定年退職時の基本給は、A氏が月額18万円1640円、B氏が16万7250円でしたが、嘱託職員としての基本給はA氏が8万1738円(定年時の45%以下)、B氏が8万1700円(同48.8%以下)となりました。これは勤続1~5年の若手正職員の基本給(11万~12万円)を下回るものです。
また、諸手当に関しては、主任以上に就いていた役職手当及び家族手当の支給がなくなり、皆勤手当及び敢闘賞も減額支給となりました。夏季及び年末の2回、正職員の基本給に一定の調整率を乗じ、勤務評定分(10段階)を加算して支給していた賞与についても原則不支給であり、一時金(10万円未満)が支給されるのみでした。
一審・二審の判決は違法
第一地裁判決(令2.10.28)及び第二審判決(令4.3.25)はいずれも正職員の基本給は「年功的性格」があるという前提の下、嘱託職員となったあとの基本給が正職員の定年時の基本給の60%を下回る範囲となり違法であると判断しました。
また賞与についても定年退職時の基本給60%に所定の掛け率を乗じて得た額を下回る範囲で旧労働契約法(現パートタイム・有期雇用労働法〈略称〉第8条)にいう「不合理」と認められるものに当たるとして違法と判断しました。諸手当については、家族手当の不支給(待遇差)は違法ではないものの、皆勤手当及び敢闘賞の減額は違法と判断しました。
最高裁の判決
ところが、最高裁は第一審及び第二審の判決に対して、基本給及び賞与に関して異なる判断をしました。まず、基本給の差については、基本給の性質や支給目的という点に関し、正職員と嘱託職員の間には相違(正職員の基本給には職務旧、職能給の性質があるが、嘱託職員には役職に就くことが想定されないなど異なる性質がある)があると指摘したうえで、労使交渉に関する事情を「その他の事情」として考慮する場合には、労使交渉の結果だけでなくその具体的な経緯も勘案すべきであると指摘し、原審の旧労働契約法第20条の解釈適用には誤りがあると判断しました。賞与についても、基本給と同様、原審が賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給目的を検討していない、労使交渉について結果に着目するだけで具体的な経緯を勘案していないことを理由に、原審の同法第20条の解釈適用には誤りがあると判断しました。
その結果、第二審の判断は旧労働契約法第20条の解釈を誤った違法があるとして破棄したうえで、本件の審理を高裁に差し戻す判断を下しました。これは同一労働同一賃金のあり方に影響を与える事件であり、差し戻し後の高裁の判決が注目となります。
カスハラに組織で対応を
今年9月の精神障害の労災認定基準の改正で、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスハラ)が具体的出来事に追加されました。
現状、カスハラについては業態・業種等の違いから明確な定義はありませんが、一般的に消費者や顧客の立場を利用して、企業に対して理不尽な要求や謝罪を強要することをいいます。
厚生労働省は一つの尺度として、要求内容の妥当性に照らして、手段・態様が社会通念上不相当なもので、労働者の就業環境が害されるものとしています。
現在、パワハラ、マタハラ、セクハラのように事業主の防止措置義務の対象とはされていないものの、厚労省のパワハラ防止指針のなかで言及され、対応マニュアルが示されています。
カスハラに対しての一律的な対策はなじまない面もあるでしょうが、企業は安全配慮義務を課せられているわけですから、現場の従業員任せではない、組織的な対応の方策についてしっかり考えていく必要があります。