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育児休業取得後の人事異動について

 産前産後休業および育児休業後に復職する女性労働者に対する処遇が降格などにあたる場合は、男女雇用機会均等法や育児介護休業法違反とされます。

 これは給与が維持されていれば「不利益な取り扱い」にあたらないのでしょうか。

 営業部の部長として37人の部下を抱えるチームを率いていた女性従業員が、育児休業取得後に復職したところ、職務等級は維持されましたが部下のいないポジションに配置され、その後も同様の人事措置を受けました。

 これに対し、東京高裁は「経済的利益の伴わない配置の変更であっても、業務内容面において労働者に不利益をもたらす処遇は均等法、育介法の禁止する取扱いに当たる」との判断を示しました。

 上記の例では育休復帰後の業務の内容の質が著しく低下し、キャリアの形成に配慮せず、これを損ねるものとして、違法との判断を下しました。

 

パワハラがあった場合(2)

パワハラ加害者を配置転換することは、対策として有効ではありますが以下の点において注意が必要です。

 まず、職種または勤務地が限定されているなど雇用契約上の制限がある場合には、配置転換命令を出しても契約違反として加害者は拒否することができます。

 また、雇用契約上の制限がない場合でも、配置転換が人事権の濫用ととられないように注意しなければなりません。加害者とはいえ、配置転換による労働環境の変化は不利益が生じることにもなります。配置転換が使用者の権利濫用法理により無効とされるかどうかは、業務上の必要性と労働者の不利益のバランスにより判断されます。つまり、加害者から配置転換無効の訴えがあった場合には、パワハラの内容や程度によって業務上の必要性の軽重が測られることになります。

 パワハラの内容が悪質である場合や、被害者の精神疾患等に至るなど被害が大きい場合は、加害者としては配転命令によってそれなりの不利益を甘受しなければならないと判断されるでしょう。しかし、加害者を懲罰目的でほとんど仕事のない部署へ配置転換したりすると、権利濫用として命令が無効と判断されたり、配置転換そのものが新たなパワハラにあたるとして争われることにもなります。

 したがって、パワハラ加害者に対する配置転換にあたっては、パワハラの程度等を踏まえて、その配置転換が適正なものかどうか慎重に検討しなければなりません。

パワハラがあった場合(1)

 ハラスメント相談窓口に従業員からパワーハラスメントを受けたとの訴えがあった場合、どのような対応をすべきでしょうか。

 使用者は、労働契約上、労働者に対してその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとするという安全配慮義務があります(労働契約法第5条)。さらに、職場におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)に関しては労働施策総合推進法上、「労働者からの相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(第30条の2第1項)と定められています。

 したがって、使用者は、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景として業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える行為または職場環境を悪化させる行為(パワハラ)に関しては、それを防止する義務があり、同時にパワハラの訴えがあったときは、事実関係を調査し、その結果に基づき、加害者に対する指導、配置換え等を含む雇用管理上適切な措置を講じなければなりません。

 パワハラが起きた場合には、加害者と被害者が同じ職場で就労し続けることは、その被害を継続、拡大させる恐れがあります。将来、再度同様の事案の発生を防止するためにも、加害者と被害者の接触の機会を可能な限り減らす配慮が必要です。加害者の配置転換により双方が同じ職場で働くことがなくなれば、接触の機会も減り、再発防止のためにも有効な措置といえます。

 厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワハラ防止指針)」(令和2年厚生労働省告示第5号)ではパワハラの事実が認められた場合に、加害者(行為者)に対する適切な措置の例として「行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること」と配置転換を取り上げています。

 配置転換に対する使用者の人事権の行使にあたっての注意点について、次回述べたいと思います。

労働法改正(2)

 労働法の改正で就業場所の変更の範囲を明記することになりましたが、テレワークを導入している場合はその旨の明記も必要になります。

 就業場所に「労働者の自宅」を含めたり、変更の範囲を「会社が定める場所(テレワークを行う場所を含む)」などと記載することを忘れないようにしましょう。

 また、有期契約労働者に対して、更新の上限を設ける場合は「契約期間は通算4年を上限とする」や「契約の更新回数は3回までとする」などの更新の条件を書面で明示する必要があります。

更新の上限を新たに設ける場合や上限を短縮する場合は、その上限を設けたり、上限までの期間を短縮する前に、その理由を労働者に説明する必要があります。

 これは必ずしも書面でなければならないということはありませんが、トラブル防止のため書面での説明が望ましいとされています。

2024年4月からの労働法の改正

 2024年4月1日から労働契約締結時における労働条件の明示事項の追加、有期契約労働者の明示事項の追加による無期転換ルールの見直し、裁量労働制に関する新たなルールなどが施行されます。

また、時間外労働の上限規制の適用猶予となっていた建設事業、自動車運転業務、医師についても適用が始まります。

 労働条件の明示事項については、新たにすべての労働者について「就業場所・業務の変更の範囲」が追加され、労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに「雇い入れ直後」の就業場所・業務内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示することになっています。

 変更の範囲を「会社の定める営業所」とすることもできますが、「できる限り就業場所・業務の変更の範囲を明確にするとともに、労使間でコミュニケーションをとり、認識を共有することが重要」とも示されていますので、可能な限り具体的に記載するのが良いでしょう。

 

業務改善助成金(7)

 業務改善助成金は生産性向上に資する設備投資等を行う必要がありますが、広告宣伝費などの関連する経費も助成対象とすることができます。

 例として設備投資を行う取り組みに関連する広告宣伝費、改築・備品等購入費が挙げられています。

 助成の対象とならないと明確に示されているのは事務所借料、光熱費、賃金、交際費、消耗品です。

 また、関連する経費は設備投資等の額を限度に助成の対象となります。

 例えば設備投資が50万円にも関わらず、広告宣伝費が70万円の場合、広告宣伝費は50万円までしか助成の対象とならないことに注意してください。

自転車通勤を認める場合のリスクについて

 満員電車の通勤を避けるとともに、通勤時の運動を兼ねることができるとして自転車通勤をする人が増えているようです。

 しかし、自転車で通勤することにリスクはないのでしょうか。

 自転車通勤での交通事故で従業員の命が脅かされることもリスクといえますが、逆に交通事故で加害者となった場合、当事者である従業員だけでなく会社も従業員と連帯して賠償責任を負うことがあります。

 会社の責任が認められるのは使用者責任が認められた場合ですが、使用者責任を認めた裁判例も認めなかった裁判例もあり、基準は事案ごとに異なると考えられます。

 自転車通勤は許可制とし、適正なルールを定めて周知、自転車保険への加入を義務付け保険証書の提出させるなどする方がよいでしょう。

 また、通勤で使用する自転車を業務において使うことを禁じるほか、安全運転に努めるよう社内規定づくりや従業員の教育を行うことが望ましいといえます。

助成金の併給について

 雇用関係の助成金には様々な種類があります。これらを同時に受けることはできるのでしょうか。

 支給要綱に「同一事業主等による同一の行為を根拠として、同時に二つ以上の助成金を支給してはならない」と定められています。

 したがって、併給できない場合があるということになります。

 どの行為が同一とみなされるかなど判断に難しい問題もありますので、複数の助成金の申請を検討している場合は厚生労働省のホームページにある「雇用関係助成金の併給調整早見ツール」を使って併給できるか確認しましょう。

 

代休・振替休日の正しい運用法(2)

今回は混同しがちな代休と振り替え休日について説明します。

代休の取り扱い
 「代休」とは休日の労働に対する代償として事後に特定の労働日の労働義務を免除し、休みを与える制度です。休日労働に対して代休を与えた場合が、通常の賃金100%を控除することができ、休日割増賃金分35%以上のみ支払い義務が発生します。代休の付与は労働基準法上の義務はなく、取得期限の制限もありません。

 そのため、代休付与を行い割増賃金を支払わない、あるいは割増賃金の支払いはあるが休日が十分に取れないなど、賃金の全額払い違反や長時間労働の温床となる可能性があります。導入する場合は就業規則などに代休を付与する際の条件などを定めて周知しましょう。

 

振替休日の取り扱い
 「振替休日」とは、あらかじめ定められた休日を事前に他の労働日を指定して振り替える制度です。休日の振替となるため、休日割増賃金を支払う必要はありません。ただし、振り替えた休日が週をまたいだ場合や、振替労働をしたことで当該週の実労働時間が週の法定労働時間を超えた場合は、時間外割増賃金の支払いが必要です。

 導入の要件は、就業規則などに振替休日の規定を設け、振替が必要な具体的事由を定めて振り返る日を特定し、振替先の日をできるだけ近接した日とすることや、振替は前日までに通知することを明記し、周知することです。

 

休日の確実な取得に向けて
 休日に労働させる場合は休日申請と同時に、事後に代休または事前に振替日を指定するなど、休日を確保できる仕組みを確立することが大切です。取得に期限を設け、同一賃金計算期間内と定めることも有効です。また、業務に繁閑がある場合は、実態に合わせて休日を設定できる変形労働時間制の導入を検討すると良いでしょう。

 法定休日が未取得の場合や所定の割増賃金が不払いの場合は、労働基準法違反として同条119条により、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。正しい知識を持って、使用者の責務である「労働時間の適正な把握」に取り組むことが重要です。

 

代休・振替休日の正しい運用法(1)

休日の考え方

 労働基準法では労働者に与えなければならない休日が定められており、これを「法定休日」といいます。法定休日の原則は「少なくとも毎週1日」ですが、例外として、月の起算日を明らかにした上で、繁閑に応じて「4週を通じて4日以上」の変形休日とすることも可能です。

 一方、法定休日以外に使用者が任意で定めた休日を「所定休日」といいます。法定休日と所定休日では、割増賃金の取り扱いや法定の割増率が異なります。このため、法定休日の特定は義務付けられていませんが、週休2日制などを採用している場合には、就業規則の休日規定を具体的に定めておくことが望ましいとされています。

 

休日の労働と割増賃金

 法定休日に労働させることを「休日労働」といいます。休日労働を可能とするには36協定を締結した上で労働基準監督署に届け出て、就業規則などに規定し、周知する必要があります。

 また、休日労働には休日割増賃金の支払い義務が発生します。割増率は35%以上、深夜労働(原則午後10時から午前5時)に及んだ場合の割増率は60%(35%+25%)以上となっています。なお、休日労働が法定労働時間である1日8時間、週40時間を超えた場合でも、時間外労働に対する割増賃金は重複して支払う必要はありません。

一方、所定休日の労働は通常の労働時間として換算されるため、休日割増賃金を支払う義務はありません。ただし、所定休日の労働時間が法定労働時間を超えた場合には割増率25%以上の時間外割増賃金を支払う必要があります。

混同しがちな代休と振り替え休日について、次回解説したいと思います。

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