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年収の壁対策の手当について
年収の壁対策の施策についての助成金について説明してきましたが、今回は「社会保険適用促進手当」について説明します。
これは2年間の上限が設けられていますが、短時間労働者への社会保険の適用にあったり保険料の算定とならない手当を設けることができるという制度になります。
社会保険の適用となることで健康保険・厚生年金保険の保険料が発生し、手取りが減少することを補うための手当を支給した場合、この手当の分を社会保険料の算定対象外とすることができるというものです。
例として挙げられているケースでは手当を支給することで保険料が18万となるところ、手当のを保険料の計算に含めないことで保険料を16万円にすることができるとなっています。
この手当も助成金を受けるための報酬の増額として認められ、会社負担分の保険料も抑えることができます。
ただし、上限額が設けられているので注意が必要となります。
年収の壁対策の施策
年収の壁対策に行われる施策を確認してみましょう。
助成金、手当、扶養認定の円滑化が基本となります。
今までも非正規雇用者の正社員化や賃金の増額に対してキャリアアップ助成金による助成が行われてきましたが、新たに社会保険適用時処遇改善コースを設け、年収の壁を意識せずに働くことのできる環境整備を目指しています。
令和7年度末までに労働者の社会保険加入を進めた事業主に申請人数の上限なしに中小企業の場合最大50万円が助成されるものになります。(2年もしくは3年間助成金を受けた場合、最大50万円となり、1年間だと最大30万円になります。また、これらはすべて中小企業の場合であり、大企業の場合は3/4の額になります。)
手当等支給メニューは、手当等により賃金の15%以上を労働者に追加で支給した事業主に助成されます。
厚生労働省のイメージでは現在年収106万円の方が社会保険(健康保険+厚生年金保険)に加入し、手取り年収が90万円になるところ、手当により16万円を支給し手取り額が106万円から下がらないようにすると示されています。
2年目も賃金の15%以上の手当等を支給した事業主に助成されますが、3年目以降に賃金を18%以上増額させる取り組みが行われることが条件とされています。
そして3年目は賃金を18%以上増額させていることで助成の対象となります。1、2年目は一時的な手当での増額が認められていますが、3年目は基本給を上昇させる、それまでの一時的な手当を恒常的なものにするなど継続的な収入の増加に取り組むことが必要です。
取組後6か月ごとに申請し、1回あたり10万円が支給されますが、1、2年目は2回の支給で年20万円、3年目のみ1回の支給で10万円となります。
2年目に継続的な収入の増加を行い、3回目の申請でまとめて30万円の助成を受けることも可能です。
労働時間延長メニューは週の所定労働時間を4時間以上延ばすか、1時間以上延ばし基本給を増額させた事業主に支給されます。
取り組みから6ヶ月後に支給申請をし、30万円が支給されます。
厚生労働省のイメージでは1年目に一時的な手当を支給し、2年目に労働時間を延長する併用ケースも示されています。
最低賃金の上昇で加入条件を意図せず満たしてしまうことも考えられますので、助成金の活用を検討してはいかがでしょうか。
厚生年金に加入するとどのくらい年金が増える?
前回、社会保険に加入することで発生する保険料が賃金にどの程度影響してくるかを見ました。今回は、加入することで将来受けることのできる老齢厚生年金がどのようになるかを見ていきます。現在の年金制度での計算ですので、法改正により変動する可能性があることを踏まえてお読みください。
まず、社会保険に加入していない場合、国民年金のみの対象となります。国民年金は最大480月加入することで満額受給することができます。現在の満額は77万7792円となっていますので、1月納付することで満額の1/480の約1620円増えることになります。
厚生年金に加入している場合、国民年金に加え厚生年金が増額されます。例として挙げた1ヶ月の賃金が12万円の場合、厚生年金を1ヶ月納付することで国民年金の1620円+厚生年金692円=約2312円増えることになります。
もし10年間加入した場合は1年間で277440円を将来受け取れることになります。一方国民年金のみに10年間加入した場合は194400円が将来受け取れる金額となります。
また、将来自身で受け取る年金額が増えるのはもちろんですが、障害厚生年金・遺族厚生年金を受け取れる可能性がありますので万が一の場合の備えとなるメリットとなります。
逆にデメリットになる場合は、配偶者の加給年金が支給されなくなる場合や、遺族厚生年金を受けることになった場合、遺族厚生年金が支給停止となることが考えられます。
年金制度は複雑であり、加入することで逆に受け取れる金額が実質的に減少するケースもありますので、加入の際はよく注意してください。
年収の壁はどの程度の影響?
昨日、いわゆる年収の壁の対策として助成金の交付や社会保険料の免除について政府から発表がありました。
実際に年収の壁を超えるとどの程度の影響があるのか具体的に見てみましょう。
1ヶ月の賃金が8万円で社会保険に加入していないケースと、1ヶ月の賃金が12万円で社会保険に加入したケースを比較してみます。
1ヶ月8万円ですと社会保険料はかからないので、雇用保険料のみが発生します。雇用保険料は0.6%なので480円が控除され、79520円が所得となります。
一方、1ヶ月12万円ですと、健康保険料5900円と厚生年金保険料10797円、雇用保険料720円が発生し17417円が控除され、102583円が所得となります。
1.5倍の賃金となっていますが、社会保険料を控除すると約1.29倍分の賃金となることが分かります。
ここで示した金額はあくまで例であり、また所得税等については考慮していません。しかし、社会保険料の影響の大きさを感じ取っていただけたのではないかと思います。
厚生年金に加入することで将来の年金額は増額されますが、それがどの程度の影響になるかは次回以降に比較してみたいと思います。
男性育休17%で過去最高
男性の育児休業取得率が10年連続で増加しています。「令和4年度雇用均等基本調査」で男性の取得率は17.13%と前年度比3.16%増で過去最高となりました。
しかし8割超の女性の取得率との乖離は大きく、以前として子育ての負担は女性に偏ったままです。
国連児童基金(ユニセフ)は2021年の報告書で、日本の育休制度について父親に認められている期間が長いことなどを理由に世界一と評価しています。しかし、いくら充実した制度でも活用されなければ意味がありません。
政府も育休制度の周知、取得意向確認や取得状況の公表などの義務付け、産後パパ育休(男性版産休)制度の創設など取り組みを加速させていますが、2025年に50%、2030年に85%という目標には大きな開きがあります。
厚労省では中小企業のみを対象とした両立支援等助成金として、子育てパパ支援助成金、代替要員の確保や取得が増す周囲の従業員への手当への助成措置などもスタートさせています。
こうした助成金も活用して、男性が育休を取得しやすい環境整備に取り組んでみてはいかがでしょうか。
試用期間中の私傷病による休職者への対応
私傷病による休職制度を設けている企業は多いですが、法的には必ず設けなければならないものではありません。したがって、休職制度を設けるか否か、また設ける場合でもその適用対象労働者、適用条件(勤続年数など)をどのような基準にするかは会社の裁量です。
休職制度がある企業でも、試用期間中および勤続年数が短い(勤続1年未満など)従業員を適用対象外とするのが一般的です。しかし、このように試用期間中の者、または勤続年数が短い者が私傷病で中長期的に労務不能となった場合で休職制度がない場合、または休職制度があっても適用対象外となる場合に、どのように対応すべきかが問題となることがあります。
そもそも、労働契約とは、労働者が会社の指揮命令に従って健全な労務提供をし、会社がその対価として賃金を支払う契約です。私傷病が原因で仕事ができなければ労働契約上の債務不履行となりますので、会社はその労働契約を解約(解雇)できます。しかし、労働者を解雇するにあたっては労働契約法第16条に基づき、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、その権利を濫用したものとして解雇は無効となります。
試用期間は「解雇権留保付き労働契約」といい、会社は、試用期間中に採用した労働者の適格性などを含めて本採用するか否かを判断し、本採用しないときは、試用期間中に解雇または試用期間満了後に本採用拒否(=解雇)することになります。試用期間中は解雇権が留保されているので本採用後解雇よりは労働契約解消に係る使用者としての裁量権は広くなるものの、労働契約法第16条に基づき解雇の有効性が問われます。
試用期間中に労働者が私傷病のために一定期間、継続的に欠勤することは、試用期間中に習得すべき業務知識が習得できないということにもなります。したがって、解雇が認められやすいともいえます。しかし、私傷病による欠勤とはいえ、一時的に休ませることにより復職し、問題なく通常業務できることが見込まれる場合には、試用期間中における労務不能を理由に即座に解雇すると、不当解雇と判断される可能性が高くなります。
また、就業規則上において休職制度を設けている会社であっても、就業規則に解雇の事由として、「精神又は身体の障害により、業務に耐えられないと会社が認めたとき」などと定められている場合は、それを根拠として解雇することができることになります。
しかし、私傷病により一時的に欠勤していることだけで労働契約上の債務不履行を理由に解雇が有効となるものではありません。1,2カ月程度の休業によって療養すれば職場に復職できることが明らかな場合は、解雇が認められないと判断されることもあります。また一定期間療養すれば元の職務に復帰できなくても配置転換や職務変更することで早期に職場復帰が見込まれる場合には、解雇無効となる可能性が高くなりますので慎重に判断しなければなりません。
私傷病での労務不能による解雇は、労働紛争に発展することが多いので、労務不能となる期間がどの程度の長さか、一部でも就労可能なのかどうかなどを総合的に判断する必要があります。
場合によっては、療養中の労働者に退職の意向を確認しつつ、退職勧奨を実施し、一定の条件をもとにした退職合意による退職の選択が可能であると提示することなども検討すべきでしょう。
加給年金の支給停止の制度改正について
厚生年金に20年以上加入している方が生計を維持している配偶者、子がいる場合は老齢厚生年金に加給年金というプラス部分が加算されます。
加算されるのは配偶者が65歳になるまでや子が18歳の年度末(障害のある子の場合は20歳の年度末)までとなります。
配偶者の条件としては生計を維持していること以外に、配偶者が20年以上の被保険者期間のある厚生年金などを受けていないことが条件となっております。
令和4年4月からの制度改正で変更になったのは厚生金に20年以上加入している配偶者の年金が支給停止になっていた場合のケースになります。
これまでは配偶者に20年以上の厚生年金加入期間があっても、働いているため老齢年金が全額停止になっている場合は加給年金の支給がされてきました。
改正では全額支給停止になっていても受給権があれば加給年金が支給されなくなり、夫婦ともに厚生年金に20年以上加入している方の場合、加給年金は支給されにくくなりました。
ハラスメント窓口の整備について
ハラスメント防止のための措置義務の一つとして、相談に応じて適切に対応するための体制を整備しなければなりません。具体的には相談窓口を設置するということになりますが、ただ形式的に設ければよいというのではなく、ハラスメント問題解決に向けた初動対応のほか、ハラスメントを未然に防止するための重要な窓口となりますので、きちんと機能するように体制を整備する必要があります。
まずは、従業員に対して相談窓口の存在をしっかり周知することです。そして、体面による相談だけでなく、電話やメールといった複数の方法を選べるようにすること、安心して相談できるように場所や時間帯などについても考慮しましょう。
相談窓口の担当者の対応では、公正かつ真摯であることが求められ、ハラスメントによりうまく話せない人に対してもじっくり耳を傾けて、その意向を正確に把握する必要があります。
相談事案に対しては、個別に適切な対応をとることになります。注意して見守る場合もあれば、上司・同僚などを通じて間接的に行為者に注意を促したり、行為者に対して直接注意するなど事案に即した対応が必要です。
ですから、会社として相談を受けた後にどのような対応をとるか、一連の流れについてあらかじめ決めておき、必要に応じて人事部門やその他関係部署を連携を図れるようにするなど体制を整備するようにします。
パワハラによる労災の認定基準の具体例
厚生労働省より心理的負荷による精神障害の労災認定基準が変更になったことを前回述べました。
具体例として様々なケースが挙げられておりますが、今回はパワーハラスメントについて具体例を確認してみたいと思います。
上司等によるパワーハラスメントでは反復継続性が心理的負荷の「強」と「中」を分けています。人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要 性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃や無視等の人間関係からの切り離しが反復継続性を持っている場合は「強」となり、持っていない場合は「中」に該当すると例示されています。また、パワハラがあることを認識していながら会社側が適切な対応をしていない場合も「強」に該当するとなっています。
同僚等の嫌がらせについても同様に反復継続性や会社側の適切な対応の有無により心理的負荷の「強」「中」を区別しています。
心理的負荷による精神障害の労災認定基準
厚生労働省では、9月1日に心理的負荷による精神障害の認定基準を改正しました。これは業務により精神障害を発病された方に対して、改正後の本基準に基づき、一層迅速・適正な労災補償を行っていくための措置となります。
主な改正点としては「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」といういわゆるカスタマーハラスメントの追加、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」ことによるものの追加があります。
また、改正前は「おおむね6か月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ」ならないとしていたのを、「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により 悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める」と変更されました。
具体的な例もより詳細に分かるようになっておりますので、速やかな労災補償を行うことももちろん重要ですが、そういった心理的負荷に留意していくことが求められます。