社会保険適用拡大に伴う配偶者手当の見直し
配偶者手当の現状
「令和5年職種別民間給与実態調査」(人事院)によれば、家族手当制度があり配偶者に支給している事業所の割合は74.5%。そのうち支給にあたり配偶者の収入による制限を設けている企業が87.4%です。その多くは税制や社会保険法上の扶養控除や配偶者控除の上限額である年収103万円、130万円などに設定されており、これらの金額を超えると家族手当の支給も制限されるのが実態です。
その結果、配偶者である自分の年収が103万円を超えると配偶者手当が支給されなくなり、また年収が130万円を超えると相手の健康保険の被扶養者から外され、自分で健康保険に加入しなければなりません。社会保険料の負担が増えて世帯収入が減ってしまうため、就業調整をしてしまうことになります。
これが、「年収の壁」であり、政府は労働力不足の深刻さが増す中、働く意欲のある全ての人が「年収の壁」を意識することなく、その能力を意識することなく、その能力を十分に発揮できる環境整備を図るために「年収の壁・支援強化パッケージ」を策定。その中で企業に対して廃止を含めた配偶者手当の見直しを進めており、2023年10月20日に「配偶者手当の見直し検討のフローチャート」を公表しました。
配偶者手当の見直し手順
フローチャートによると、その手順は、①賃金制度・人事制度の見直しの検討➡②従業員のニーズを踏まえた案の策定➡③見直し案の決定➡④決定後の新制度の丁寧な説明の4ステップとなっています。
まず、①で他社事例などを参考にしながら自社に適合した案を検討します。それから②でアンケートや各部門からのヒアリングを行い、従業員のニーズを踏まえた自社案を策定します。そして③で従業員に納得してもらえる見直し案を決定。その過程では、労使間で丁寧な話し合いをすること、賃金原資総額の維持(廃止・調整する場合でも賃金原資の総額が変わらないように調整すること)、必要な経過措置を設けることなどを留意点として挙げています。最後に④で見直しの影響を受ける従業員に対して丁寧な説明を行い、従業員の満足度向上につなげるようにすること、としています。
なおフローチャートでは従業員に納得感のある手当見直し案として以下の4つを具体例に挙げています。
手当見直し内容の具体例
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見直しに伴う法的留意点
配偶者手当の見直しは、労働条件の一つである賃金制度の不利益変更ともなります。そのため見直しにあたっては労働契約法第9条・第10条および判例等を踏まえた不利益変更への対応が必要です。配偶者手当の減額や廃止による不利益変更は、従業員の合意がない限り原則として認められません。したがって、前述のステップ②・③・④が重要になります。
見直す場合は「支給対象者の基本給に吸収する」「全社員の基本給等を原資にする」「他の福利厚生制度で代替する」などの対応が必要となります。現在、配偶者手当の支給を受けており、廃止によって不利益を受ける従業員に対しては、段階的に支給額を減額していくなどの経過措置を取り、労働者の不利益を軽減することも検討すべきです。
また、従業員の同意を得ることも必要なため、説明会なども検討し、丁寧かつ慎重に進める必要があります。