就業規則と労働契約書の優先順位について
就業規則に定めた所定労働時間と労働者との個別合意のある所定労働時間はどちらが優先となるのでしょう
たとえば就業規則では1日の所定労働時間が7時間30分、労使で合意した個別の労働契約書が8時間でともに法定労働時間内の場合、問題ないのか?
就業規則は、その会社で働く労働者に共通する労働条件を定めており、労働契約書は個々の労働者との労働条件を定めています。就業規則の労働条件と労働契約書の労働条件が異なる場合には、労働者保護の観点から労働者にとって有利な労働条件が有効となります。就業規則が労働契約書より有利なら就業規則に基づくことになり、労働契約書のほうが就業規則より有利なら労働契約書に基づくことになります。
就業規則と労働契約書との関係について、労働契約法では次のように定めています。
- 「労働者および使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者および使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第112条に該当する場合を除き、この限りではない」(第7条)
- 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」(第12条)
つまり①については、就業規則が個別に締結した労働契約の内容を補充することを定めた上でかつ、労働契約で合意した労働条件の部分は就業規則に優先することを定めています。しかし、②では労働契約で合意した労働条件が就業規則よりも労働者にとって不利な場合には、就業規則で定められた労働条件が優先することになります。
したがって、労働者との個別の労働契約で定めた労働条件については、その内容が就業規則で定める労働条件を上回る部分については有効となり、下回る部分については無効となります。無効となった部分は、就業規則で定めた労働条件によることになります。
個別の労働契約で労働条件を定める場合には、法律、労働協約(労働組合と締結した協約)、就業規則との関係(優先順位)を意識しなければなりません。労働契約法では「就業規則が法令又は労働協約に違反する場合には、当該反する部分については、第7条、第10条および第12条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については適用しない」(第13条)と定めています。
したがって、労働条件は、労働基準法、労働契約法等の法律に違反するものであってはならず、また労働協約、就業規則に違反するものであってもなりません。その優先順位は、(法律>労働協約>就業規則>労働契約)となります。労働者と労働契約を締結するにあたっては、この優先順位を理解して無効となるような労働条件で締結しないように注意しなければなりません。