定年後再雇用者の基本給のあり方への影響
定年再雇用後の再雇用で基本給や賞与が引き下げられたのは不当だとして、名古屋自動車学校(愛知県名古屋市)の元職員の男性2人(A氏、B氏)が差額分の支払いなどを求めた訴訟の上告審判決で、最高裁判所は7月20日、基本給が正社員の60%を下回るのは違法とした名古屋高等裁判所の二審判決について、「基本給と賞与の支払い目的・性質や労使交渉の経緯について検討が不十分である」として破棄し、審理を同高裁に差し戻しました。これは、基本給等の賃金格差をめぐる「同一労働同一賃金」に関する事件です。
事件の概要
名古屋自動車学校の元職員2人は教習指導員として2013年及び2014年に60歳を迎え、定年後は同社の継続雇用制度に基づき、引き続き教習指導員(嘱託職員)として勤務していました。ただし、再雇用にあたっては主任の役職を退任したこと以外、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)に定年前との相違はありませんでした。
定年退職時の基本給は、A氏が月額18万円1640円、B氏が16万7250円でしたが、嘱託職員としての基本給はA氏が8万1738円(定年時の45%以下)、B氏が8万1700円(同48.8%以下)となりました。これは勤続1~5年の若手正職員の基本給(11万~12万円)を下回るものです。
また、諸手当に関しては、主任以上に就いていた役職手当及び家族手当の支給がなくなり、皆勤手当及び敢闘賞も減額支給となりました。夏季及び年末の2回、正職員の基本給に一定の調整率を乗じ、勤務評定分(10段階)を加算して支給していた賞与についても原則不支給であり、一時金(10万円未満)が支給されるのみでした。
一審・二審の判決は違法
第一地裁判決(令2.10.28)及び第二審判決(令4.3.25)はいずれも正職員の基本給は「年功的性格」があるという前提の下、嘱託職員となったあとの基本給が正職員の定年時の基本給の60%を下回る範囲となり違法であると判断しました。
また賞与についても定年退職時の基本給60%に所定の掛け率を乗じて得た額を下回る範囲で旧労働契約法(現パートタイム・有期雇用労働法〈略称〉第8条)にいう「不合理」と認められるものに当たるとして違法と判断しました。諸手当については、家族手当の不支給(待遇差)は違法ではないものの、皆勤手当及び敢闘賞の減額は違法と判断しました。
最高裁の判決
ところが、最高裁は第一審及び第二審の判決に対して、基本給及び賞与に関して異なる判断をしました。まず、基本給の差については、基本給の性質や支給目的という点に関し、正職員と嘱託職員の間には相違(正職員の基本給には職務旧、職能給の性質があるが、嘱託職員には役職に就くことが想定されないなど異なる性質がある)があると指摘したうえで、労使交渉に関する事情を「その他の事情」として考慮する場合には、労使交渉の結果だけでなくその具体的な経緯も勘案すべきであると指摘し、原審の旧労働契約法第20条の解釈適用には誤りがあると判断しました。賞与についても、基本給と同様、原審が賞与及び嘱託職員一時金の性質及び支給目的を検討していない、労使交渉について結果に着目するだけで具体的な経緯を勘案していないことを理由に、原審の同法第20条の解釈適用には誤りがあると判断しました。
その結果、第二審の判断は旧労働契約法第20条の解釈を誤った違法があるとして破棄したうえで、本件の審理を高裁に差し戻す判断を下しました。これは同一労働同一賃金のあり方に影響を与える事件であり、差し戻し後の高裁の判決が注目となります。