同一労働同一賃金の考え方(3)

 日本郵便(大阪)事件では無期労働契約を締結している正社員に扶養手当が支給されるのに対して、有期労働契約の契約社員には支給されないことを不合理と判断しました。

 継続的な勤務が見込まれる労働者に扶養手当を与えるということは使用者の経営判断として尊重し得るが、契約社員についても扶養親族があり、この裁判の原告らのうち7人は契約社員として10年以上勤務していたことなどを考慮し扶養手当の対象とすべきとしています。

 このケースでは扶養手当の趣旨が「継続的な雇用を確保する」ことを目的としているため、契約社員であっても更新を繰り返し、継続的な勤務が見込まれるとして扶養手当を支給しないのは不合理な扱いであると判断されました。

 前回のケースと合わせ、単なる手当の名称などではなく、その趣旨・性質によって不合理であるかの判断がされていることが分かります。

同一労働同一賃金の考え方(2)

 前回触れた長澤運輸事件では住宅手当・家族手当・役付手当・賞与については支給しないことは不合理ではないと判断されました。

 これらのうち、住宅手当・家族手当・賞与については、再雇用された嘱託乗務員が老齢厚生年金の支給を受けることが予定され、老齢厚生年金が支払われるまでも調整給が支払われることを理由としています。

 役付手当については年功給、勤続給的性格のものではないことを理由としています。

 一方、家族手当に近い性質を持つ扶養手当を支給しないことに対し、不合理であるとの判断が下された例もあります。

 次回はその違いについて見ていきます。

同一労働同一賃金の考え方(1)

 2020年4月1日(中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法は2021年4月1日)から正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇の差を設けることが禁止されました。

 裁判例を基に、どのようなものが不合理にあたるのかを確認していきたいと思います。

 平成30年の長澤運輸事件では、二つの手当について正社員との間に差を設けることは不合理と判断されました。

 不合理とされたのは精勤手当とその精勤手当が計算の基礎に入っていなかった時間外手当になります。

 精勤手当については職務内容が同一である以上、皆勤を奨励する必要性に違いはないと判断されました。

 一方で不合理と判断されなかったものとして住宅手当・家族手当などがあり、これについては次回以降に触れていきたいと思います。

フリーランスの労災保険の特別加入を承認

 フリーランスとして仕事をする方の労災保険への特別加入が今年の秋から拡大されることになりました。

 想定されるのは営業・講師・インストラクター、デザイン制作・コンテンツ制作、調査・研究・コンサルティング、データ入力、ライティング・記事等執筆業務などで、約273万人いるとされています。

 通常の労災保険は使用者が保険料を負担しますが、特別加入の場合は加入者自身が保険料を負担することになります。保険料全額自己負担でも労災に加入したいと考える人が約半数いるとの調査もあります。

 この措置は今年の秋からと予定されていますので、加入を希望するフリーランスの方は今後発表される具体的な手続きについて確認するようにしてください。

 

育児休業後の人事異動について(2)

 経済的な不利益を伴わない配置の変更であっても、産前産後休業および育児休業から復職した労働者に対する「不利益な取り扱い」に該当するケースがあることを紹介しました。

 これは会社側が一方的に配置変更を行ったケースであり、当該労働者の自由な意思に基づいて人事措置を承諾したと認められる場合、または業務上の必要性の内容や程度、影響などに照らして、均等法や育児介護休業法の趣旨・目的には実質的に反しない場合は問題はないとしています。

 労働者の意思を確認し、適切な人事措置を取るように心がけることが重要です。

 

育児休業取得後の人事異動について

 産前産後休業および育児休業後に復職する女性労働者に対する処遇が降格などにあたる場合は、男女雇用機会均等法や育児介護休業法違反とされます。

 これは給与が維持されていれば「不利益な取り扱い」にあたらないのでしょうか。

 営業部の部長として37人の部下を抱えるチームを率いていた女性従業員が、育児休業取得後に復職したところ、職務等級は維持されましたが部下のいないポジションに配置され、その後も同様の人事措置を受けました。

 これに対し、東京高裁は「経済的利益の伴わない配置の変更であっても、業務内容面において労働者に不利益をもたらす処遇は均等法、育介法の禁止する取扱いに当たる」との判断を示しました。

 上記の例では育休復帰後の業務の内容の質が著しく低下し、キャリアの形成に配慮せず、これを損ねるものとして、違法との判断を下しました。

 

パワハラがあった場合(2)

パワハラ加害者を配置転換することは、対策として有効ではありますが以下の点において注意が必要です。

 まず、職種または勤務地が限定されているなど雇用契約上の制限がある場合には、配置転換命令を出しても契約違反として加害者は拒否することができます。

 また、雇用契約上の制限がない場合でも、配置転換が人事権の濫用ととられないように注意しなければなりません。加害者とはいえ、配置転換による労働環境の変化は不利益が生じることにもなります。配置転換が使用者の権利濫用法理により無効とされるかどうかは、業務上の必要性と労働者の不利益のバランスにより判断されます。つまり、加害者から配置転換無効の訴えがあった場合には、パワハラの内容や程度によって業務上の必要性の軽重が測られることになります。

 パワハラの内容が悪質である場合や、被害者の精神疾患等に至るなど被害が大きい場合は、加害者としては配転命令によってそれなりの不利益を甘受しなければならないと判断されるでしょう。しかし、加害者を懲罰目的でほとんど仕事のない部署へ配置転換したりすると、権利濫用として命令が無効と判断されたり、配置転換そのものが新たなパワハラにあたるとして争われることにもなります。

 したがって、パワハラ加害者に対する配置転換にあたっては、パワハラの程度等を踏まえて、その配置転換が適正なものかどうか慎重に検討しなければなりません。

パワハラがあった場合(1)

 ハラスメント相談窓口に従業員からパワーハラスメントを受けたとの訴えがあった場合、どのような対応をすべきでしょうか。

 使用者は、労働契約上、労働者に対してその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとするという安全配慮義務があります(労働契約法第5条)。さらに、職場におけるパワーハラスメント(以下、パワハラ)に関しては労働施策総合推進法上、「労働者からの相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(第30条の2第1項)と定められています。

 したがって、使用者は、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景として業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える行為または職場環境を悪化させる行為(パワハラ)に関しては、それを防止する義務があり、同時にパワハラの訴えがあったときは、事実関係を調査し、その結果に基づき、加害者に対する指導、配置換え等を含む雇用管理上適切な措置を講じなければなりません。

 パワハラが起きた場合には、加害者と被害者が同じ職場で就労し続けることは、その被害を継続、拡大させる恐れがあります。将来、再度同様の事案の発生を防止するためにも、加害者と被害者の接触の機会を可能な限り減らす配慮が必要です。加害者の配置転換により双方が同じ職場で働くことがなくなれば、接触の機会も減り、再発防止のためにも有効な措置といえます。

 厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(パワハラ防止指針)」(令和2年厚生労働省告示第5号)ではパワハラの事実が認められた場合に、加害者(行為者)に対する適切な措置の例として「行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること」と配置転換を取り上げています。

 配置転換に対する使用者の人事権の行使にあたっての注意点について、次回述べたいと思います。

労働法改正(2)

 労働法の改正で就業場所の変更の範囲を明記することになりましたが、テレワークを導入している場合はその旨の明記も必要になります。

 就業場所に「労働者の自宅」を含めたり、変更の範囲を「会社が定める場所(テレワークを行う場所を含む)」などと記載することを忘れないようにしましょう。

 また、有期契約労働者に対して、更新の上限を設ける場合は「契約期間は通算4年を上限とする」や「契約の更新回数は3回までとする」などの更新の条件を書面で明示する必要があります。

更新の上限を新たに設ける場合や上限を短縮する場合は、その上限を設けたり、上限までの期間を短縮する前に、その理由を労働者に説明する必要があります。

 これは必ずしも書面でなければならないということはありませんが、トラブル防止のため書面での説明が望ましいとされています。

2024年4月からの労働法の改正

 2024年4月1日から労働契約締結時における労働条件の明示事項の追加、有期契約労働者の明示事項の追加による無期転換ルールの見直し、裁量労働制に関する新たなルールなどが施行されます。

また、時間外労働の上限規制の適用猶予となっていた建設事業、自動車運転業務、医師についても適用が始まります。

 労働条件の明示事項については、新たにすべての労働者について「就業場所・業務の変更の範囲」が追加され、労働契約の締結と有期労働契約の更新のタイミングごとに「雇い入れ直後」の就業場所・業務内容に加え、これらの「変更の範囲」についても明示することになっています。

 変更の範囲を「会社の定める営業所」とすることもできますが、「できる限り就業場所・業務の変更の範囲を明確にするとともに、労使間でコミュニケーションをとり、認識を共有することが重要」とも示されていますので、可能な限り具体的に記載するのが良いでしょう。

 

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